蛙声

10月28日

とろけるチーズがとろける様をじっと見ている。

10月19日

雨が降り、止んだ。
降った時も止んだ時も俺は室内にいてそれを知らなかった。
ただ濡れた路面でそれを知っただけだった。
遠く離れた声がうるさくて響くので、かき消す術を探していた。
雨を降らすのをやめた空はしばらく何も落とす気はないようで、仕方がないので俺は本棚の中に答えを探そうとしている。

10月15日

ポツポツと雨が降り始める。
傘はない。
次第に強くなる雨に打たれるまま歩く。
ほてった体が冷え、気持ちがいい。
家まで歩く。
びしょ濡れの俺を見て、妻が笑う。
つられて俺も笑う。

10月14日

東の窓から音のない声が流れ込む。
窓の下で寝る俺はその声をまともに受けてしまう。
部屋は蒸し暑くじっとりと汗ばむ。
久しく夢を見ていない。
見ても忘れているのかもしれない。
なんにせよ、冷蔵庫に入れた食品の賞味期限だけ気にすることはやめなければならない。
気が付いていないだけで、音のない声は西や北の窓からも流れ込んでいるのだと思う。

10月13日

気がつけば夜は寒くなり、エアコンが不要になる。
窓から差し込む光は共用廊下の灯り。
月が出ているのか俺にはわからない。
小さな人が寝返りを打つ。
踵に腕が打たれる。
寝息が満ちた部屋の純度を上げるように、俺はカーテンを閉めて目を閉じる。

10月10日

大袈裟な身振りで左折を伝える自転車の男。
工場から流れるペットフードの匂い。
ジリジリと頬を焼く西日。
使われないアースリール。
強引に追い抜きをする白いSUV。
閉店間際のパチンコ屋。

10月7日

横向きで眠る子に寄り添う。
小さなお尻が俺のお腹に当たっている。
夜ご飯を食べ過ぎたので少しくるしい。
部屋は暖かく静かである。
秋の夜。
虫の声だけがない。
キッチンに行き冷たいお茶を飲むか、このまま寝てしまうか。
迷い、決めかねる。
今日は何も決めない。
今そう決めた。

10月4日

家路を行く。
空気は冷たく湿っている。
買い物をする間に雨が降り、上がったらしい。
街灯に照らされ光る幾つもの水たまりがそれを教えてくれる。
数日前に行った東京のことを考える。
楽しかったが、酒はもう少し控えようと反省する。
家路を行く。
アスファルトのくぼみに溜まった三つの水たまりが人の顔に見える。
怯まずに踏み荒らして歩く。
風は少しも吹かない。
私は歩くスピードを少し速くする。